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糖由来成分による毛髪に対する効果について
- 糖由来成分「ヒドロキシプロピルグルコナミド(HPG)」が主に非晶構造(マトリックス/KAP)に、「加水分解コーンスターチ(HCS)」が主に結晶構造(ミクロフィブリル/IF)に作用するという、異なる補修メカニズムを解明した。
- HPGまたはHCSの単独処理では得られなかった「水中引張破断強度」の有意な回復を、両成分の併用(組み合わせ処理)によって実現した。
- 本研究成果は2026年繊維学会年次大会にて発表を行った。
背景と目的
ヘアカラーやパーマなどの美容施術、あるいは加齢に伴い、毛髪内部のタンパク質構造は損傷してしまいます。この毛髪内部構造の変化は、髪の強度低下や切れ毛を引き起こす原因となるだけでなく、髪のまとまりやツヤといった見た目の美しさにも大きく悪影響を及ぼします。
我々は、これまでに糖由来成分である「ヒドロキシプロピルグルコナミド(HPG)」が高い毛髪補修効果を持つことを報告してきました。本研究では、さらにHPGによる毛髪構造修復効果を高める方法を探索し、新たに「加水分解コーンスターチ(HCS)」に着目。それぞれの毛髪内部における詳細な作用部位(作用点)を解析するとともに、両成分を組み合わせた際の相乗効果について検証を行いました。
毛髪の構造
毛髪の大部分(約85〜90%)を占めるコルテックスという組織は、ミクロな繊維である「ミクロフィブリル(IF)」と、その隙間を埋める「マトリックス(KAP)」の2つで構成されています。どちらも毛髪の強度やしなやかさなど、毛髪本来の良い質感と大きく関わっていると考えられています(図1)。

図1.毛髪の構造
【研究成果 1】 作用部位の解析
まず、High-Pressure DSC(HPDSC)を用い、各成分が毛髪内部のどの構造に作用しているかを評価しました。
・HCS(加水分解コーンスターチ)の作用:HCS処理により、ミクロフィブリル(IF)中のヘリックス量や構造完全性の指標であるピーク面積(ΔH)が上昇傾向を示しました。これは、HCSが主に結晶構造であるミクロフィブリル(IF)に作用し、その規則構造の修復をしていることを示唆しています。
・HPG(ヒドロキシプロピルグルコナミド)の作用:HPG処理により、マトリックス(KAP)の架橋密度の指標であるピークトップ温度(Tp)が大幅に上昇し、結晶の融解を抑制する傾向を示しました。これは、HPGが主に非晶構造であるマトリックス(KAP)の修復をし、IF構造の保持効果を発揮していることを示唆しています。

図2. HPDSC測定結果
【研究成果 2】 毛髪強度回復効果の評価
水の影響を受けにくいミクロフィブリル(IF)ネットワークの力学特性を強く反映する「水中引張試験」を実施しました。
ブリーチによるダメージ処理毛に対し、HPG単独あるいはHCS単独の処理では、引張応力の明確な回復は確認されませんでした。しかし、両成分を組み合わせた処理を施した毛髪では、未処理毛や単独処理毛と比較して水中での引張破断強度を有意に回復させることが確認されました。これは、異なる作用点(IFとKAP)へ同時にアプローチすることで相乗的な補修効果が得られた為と考えられます。

図3. 水中引張破断応力
【研究成果 3】 タンパク質構造比率の評価
毛髪タンパク質の二次構造を分子レベルで評価するため、固体NMR測定を行いました。
HPG単独、HCS単独のいずれの処理においても、ダメージによって減少していたα-ヘリックス構造の割合が回復することが確認されました。さらに、両成分の組み合わせ処理においては、単独処理と比較してα-ヘリックス構造の回復量が増加傾向にあり、構造レベルでも高い相乗効果が得られることが示唆されました。
表1. 毛髪タンパク質 構造比率

まとめ
◆ 加水分解コーンスターチ(HCS):毛髪周囲または内部で相互作用し、結晶構造の修復を促進することで、ミクロフィブリル(IF)の規則構造を修復します。
◆ ヒドロキシプロピルグルコナミド(HPG):毛髪周囲または内部で相互作用し、マトリックス(KAP)の修復を促進しつつ、IF間隙(すき間)へ充填されます。
このように、ミクロフィブリル(IF)とマトリックス(KAP)という毛髪内部の異なる立体構造へ同時にアプローチすることで、単独では成し得なかった高い毛髪補修・強度改善効果が発揮されます。

図4. 本研究成果のイメージ図
今後の展望
本研究により、作用部位の異なる2つの成分(HPGとHCS)を組み合わせることで、毛髪内部の結晶構造と非晶構造の双方に対して相乗的な補修および強度改善効果が得られることが明らかになりました。髪の芯を支える硬い背骨のようなミクロフィブリルと、それを包み込んでしなやかさと潤いを与えるマトリクス。この2つが健康に保たれていることこそが、美しく強い髪の条件であると我々は考えております。
毛髪本来の健康的で力強い構造を効率的かつ本質的に修復できるこの新技術は、美容施術による深刻なハイダメージ毛のケアだけでなく、加齢に伴う毛髪内部のタンパク質損傷(エイジング毛)に対しても極めて有効であると考えられます。今後は、本研究で得られた「異なる作用点へのダブルアプローチによる相乗効果」の知見を生かし、幅広いお客様の髪の悩みを解決する、高い補修効果と持続性を兼ね備えたヘアケア製品の開発へと繋げてまいります。
本研究成果は、2026年6月17日~19日に開催された2026年繊維学会年次大会にて発表を行いました。
| 発表会 | 2026年繊維学会年次大会 |
|---|---|
| 発表タイトル | 糖由来成分による毛髪に対する効果について |
| 発表者 | 大熊康範、富樫孝幸、田中二郎 |
| 発表日 | 2026年6月18日 |
用語解説
ミクロフィブリル
アミノ酸がつながった「α-ヘリックス」というらせん状のケラチンが、規則正しく何本も束ねられて作られている。結晶構造を持ち、非常に硬く、弾力性がある。縦方向の引っ張りに強く、髪のコシや強度を生み出す源となっている。
マトリックス
ミクロフィブリル同士の隙間を埋めている非結晶性のタンパク質。ミクロフィブリルとは対照的に、規則正しいらせん構造を持たない「非結晶性ケラチン(γ-ケラチン)」が主成分。水分を抱え込む親水性の性質を持ち、非常に柔らかく、柔軟性と保水力に優れている。
α-ヘリックス
髪の主成分であるタンパク質の立体構造の一種。タンパク質は、たくさんのアミノ酸が一本の鎖のようにつながってできている。この鎖が、右回りのらせん状(らせん階段のような形)にねじれた構造を「α-ヘリックス」と呼ぶ。このα-ヘリックスが集まって円筒状に並び、ミクロフィブリルとなる。