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2019.07.19
INFORMATION

【研究レポート】ヘアアイロンなどの高温の熱から毛髪を守る物質を発見

ポイント

●ヘアアイロンなどによる熱から毛髪を守る効果を示す物質(グリシンベタイン)を見出した。

●グリシンベタインは熱処理による毛髪強度の低下を強く抑制し、高い保護効果を示した。

●グリシンベタインは毛髪中のミクロフィブリルとマトリックスの両方を保護することが明らかとなった。さらに、毛髪構造を熱から保護するメカニズムについても推察した。

●本研究内容は、2018年に東京都で開催された第83回 SCCJ 研究討論会にて発表。また、FRAGRANCE JOURNAL 2019年6月号に掲載された。

 

 【背景と目的 高温の熱から毛髪を保護する新たな方法の探索】

近年のヘアアイロンの普及とともに毛髪を熱から保護する重要性はますます高まってきています。毛髪内部のミクロフィブリルやマトリックスといったケラチンタンパク質(上のイメージ図参照)は、アイロンなど高温の熱によって本来の規則的な構造とは異なる状態に変性(凝集化)することが知られています。

これまで毛髪を熱から保護する方法は分子量数千~数万の高分子物質(ポリマー)を用いて毛髪表面に保護被膜を形成させる方法が一般的でした。しかしながらポリマー類は仕上がりの質感に大きく影響する場合が多いため、自然な仕上がりに対するニーズには対応できないことも多く、新たなアプローチによる熱保護の方法が求められています。

そこで、毛髪内部への浸透作用や毛髪補修作用が検討されてきたアミノ酸やその類似物質に着目し、低分子物質(分子量~数百)が毛髪内部構造を熱から守る新しい手法での熱保護方法の探索に取り組みました。

 

研究結果① 

各低分子物質により前処理した熱処理毛髪の引張り強度低下度合いの比較

 

図1 低分子物質前処理による引張り強度の低下抑制効果

mean ± SD, n=5  Tukey test  ✻✻:p<0.01, ✻✻✻:p<0.001

ヘアアイロン処理(180℃・40回)による毛髪強度低下を測定したところ、何も前処理を行わなかった場合は毛髪強度が顕著に低下しているのに対し、アミノ酸の一種であるL-アルギニンやグリシンベタインで前処理を行った場合は毛髪の強度低下が抑制されることが分かりました。

 

研究結果②

各低分子物質により前処理した熱処理毛髪の毛髪内部構造変化度合いの比較

図2.1 未処理毛と各前処理毛の変性開始温度の差    図2.2 未処理毛と各前処理毛の変性エンタルピーの差

※マトリックスの状態変化量を示す          ※ミクロフィブリルの状態変化量を示す

 

L-アルギニンとグリシンベタインの作用機構を明らかにするため、高圧示差走査熱量計の測定を行いました。この測定により、毛髪中のミクロフィブリル・マトリックスそれぞれへの影響を確認することができます。

前処理無し(赤色バー)の場合、ミクロフィブリル・マトリックスいずれも状態変化が大きく、熱による影響を強く受けていることが分かります。一方、L-アルギニン処理毛(水色バー)ではミクロフィブリルは前処理無しと同様に状態変化を起こしていますが、マトリックスは状態変化が少なく熱からの保護効果が確認されました。また、グリシンベタイン処理毛(紫色バー)ではミクロフィブリル・マトリックスのいずれも状態変化が少なく、両方の構造を熱から保護していることが分かりました。

 

まとめ

~グリシンベタインによる毛髪ケラチンタンパク質の熱からの保護イメージ~

 

今回の研究結果から、熱処理前にグリシンベタインを塗布しておくことで高温の熱が加わってもケラチンタンパク質が変性せずに元の構造を保つことが示され、熱ダメージが抑制されることが明らかとなりました。従来、グリシンベタインは主に保湿剤として使用されてきた物質ですが、今回の検討から毛髪の熱保護剤としての効果を示すことを新たに発見しました。

さらに保護効果の違いから、グリシンベタインとL-アルギニンは異なるメカニズムで毛髪に作用していると考えられます。タンパク質安定化に関する従来の知見から、L-アルギニンはマトリックスを形成する球状タンパク質どうしの凝集を抑制することにより、マトリックスの状態変化を抑制していると考えられます。

一方、グリシンベタインはマトリックスだけではなくミクロフィブリルも安定化することが見いだされました。グリシンベタインは立体構造の安定化作用があることが知られていることから、ミクロフィブリル中に存在するケラチンタンパク質の最小単位であるαヘリックス立体構造を安定化している、と考えられました(以下のイメージ図参照)。

 

図3 グリシンベタインの毛髪保護イメージ


本研究成果は、2018年12月20日に東京都で開催された第83回 SCCJ 研究討論会にて発表を行いました。また、FRAGRANCE JOURNAL 2019年6月号に掲載されました。

  • 発表会   :第83回SCCJ研究討論会(東京都)
  • 発表タイトル:“低分子物質による毛髪の熱保護の検証”
  • 発表者   :富樫 孝幸
  • 発表日   :2018年12月20日