研究開発

2020.12.01
学会発表報告

毛髪の結晶構造の“修復”方法を解明

●ヘアカラー施術やパーマ施術によりダメージを受ける毛髪内部の結晶構造について、グリシンベタイン処理により修復効果が得られることが初めて明確に示された。
●毛髪の強度やしなやかさに関わる、毛髪の結晶構造の修復方法が明らかになったことで、弾力感や質感の持続的な回復方法への応用が期待される。
※本研究内容は、国際学術大会である IFSCC 2020 Yokohamaにて発表。

 

背景と目的

毛髪は死んだ細胞であるため、ダメージを受けた毛髪は元には戻らないとされています。そのため、毛髪の構造が持つ、滑らかさやしなやかさといった優れた質感や性質はダメージによって失われてしまいます。

一般的なトリートメント施術は、失われた質感や性質を補うための成分を浸透・保持させることを目的とし、“補修”の考え方で行われています。それに対し、ダメージによって失われた毛髪本来の構造を取り戻す、“修復”の考え方を実現できれば、毛髪本来の優れた質感や性質を持続的に回復出来ると期待されますが、これまで“修復”方法を明確に示した例はほとんどありませんでした。

毛髪内部コルテックスを構成するミクロフィブリルは、α-ヘリックス構造を形成するケラチンタンパク質同士が規則的に配列した構造(≒結晶構造)となっていることが知られており、毛髪の強度やしなやかさと関連していると考えられています。この結晶構造は、ヘアカラー施術やパーマ施術、紫外線などにより変化し、徐々に失われてしまうことが知られています。

本研究では、植物由来のアミノ酸の一種であるグリシンベタインという成分により、ダメージによって変化した結晶構造を修復する効果があることを初めて発見しました。


 

研究結果①

毛髪内部結晶構造の修復効果の検証

 

 

グリシンベタインによる結晶構造の修復効果を明らかにするため、高圧示差走査熱量測定を行いました。この測定で得られる変性エンタルピーという指標は、毛髪中の結晶構造の状態を表すとされ、変性エンタルピーが大きいほど、結晶状態が良好であると考えられています。

結果から、ブリーチ処理毛とパーマ処理毛の両方において、変性エンタルピーの低下が見られ、結晶構造にダメージを受けていることが分かります。それらに対し、グリシンベタイン処理を行うことにより、変性エンタルピーの値が上昇することが明らかとなりました。これらの結果から、ダメージ毛に対するグリシンベタイン処理により、毛髪の結晶状態の修復効果を示すことが明らかとなりました。

 


 

研究結果②

毛髪強度の回復効果の検証

 

 

 

毛髪の結晶構造の修復により、毛髪強度の回復効果が期待されるため、水中での引張り試験にて評価を行いました。この測定から得られる破断時応力は、毛髪の結晶構造の状態を主に反映すると考えられています。

その結果、ブリーチ処理毛とパーマ処理毛の両方において、破断時応力の低下が見られました。それらに対し、グリシンベタイン処理を行うことにより、破断時応力の値が上昇することが示されました。これらの結果から、ダメージ毛に対するグリシンベタイン処理による結晶構造の修復によると考えられる、毛髪強度の回復効果が得られることが示されました。 

 


 

まとめ

 

今回の研究結果から、①毛髪内部コルテックスを構成するミクロフィブリル(≒結晶構造)の“修復”が可能であることを明らかにし、②結晶構造の修復に伴って期待される、毛髪強度の回復効果も示されました。

毛髪結晶構造の修復方法が明らかになったことで、結晶構造にダメージを受けてしまう毛髪に対し、毛髪本来の強度や質感を持続的に回復することが可能になると考えられます。また、毛髪の結晶構造は加齢とともに変化し、質感の低下につながることなどが近年分かってきており、結晶構造の修復による弾力感の持続的な向上などへの応用も期待されます。

本研究を足掛かりとして、ダメージによって引き起こされる様々な毛髪の変化の“修復”手法の開発や“修復”メカニズムの解明に向け、研究を進めていきます。

 


 

本研究成果は、2020年10月21~30日にオンラインで開催されたIFSCC 2020 Yokohamaにて発表を行いました。

 

  • 発表会    : IFSCC 2020 Yokohama
  • 発表タイトル : Restoration of hair crystalline structure by glycine betaine hydration
  • 発表者    : 富樫 孝幸、望月 章雅
  • 発表日    : 2020 10 2130